陶芸を始めたばかりの頃、私は「形をつくろう」と必死でした。
頭の中に理想のイメージを描き、その通りに手を動かそうとする。
けれど、思い通りにいかないことの方が多く、
土は私の意図を軽々と裏切っていきました。
しかし、ある日ふと気づいたのです。
土は、私の“考えた形”ではなく、“今の私”を映しているのだと。
焦っている日は、土も落ち着かない。
迷っている日は、形も揺れる。
逆に、心が静かな日は、自然と穏やかな曲線が生まれる。
その瞬間、私は初めて
「形はつくるものではなく、出会うものなのかもしれない」
と感じました。
土に触れていると、
自分がどんな状態にあるのかが、手のひらを通して伝わってきます。
頭で考えても見えなかった“本来の自分”が、
土の柔らかさの中で、ゆっくりと姿を現してくるのです。
食品モチーフの作品をつくり始めたのも、
龍の抽象表現に惹かれたのも、
実はこの「出会い」の感覚から生まれました。
パンの形をした陶器も、
バターが溶けたような釉薬も、
龍の尾のような曲線も、
最初から意図していたわけではありません。
手を動かし、土と向き合い、
その日の自分の状態を受け入れたとき、
自然と“その形”が現れてきたのです。
陶芸は、上手さを競うものではありません。
正解もありません。
ただ、
「今の自分は、どんな形を生み出すのだろう」
という静かな問いかけだけがある。
その問いに耳を澄ませると、
土はいつも正直に答えてくれます。
もし今、あなたが迷っているなら、
考えすぎず、手を動かしてみてください。
土でなくても構いません。
紙でも、料理でも、散歩でもいい。
手を動かすと、
頭では気づけなかった“本来の形”が、
あなたの中からそっと立ち上がってくるはずです。